■はじめに■
平成17年の秋以降、建築界は「構造計算の偽造」という思いもよらぬ信じられない事件で大きく揺らいでいます。その中でも「建築士」の資質が問われはじめました。多角的な角度から要因を追求する必要がありますが、基本に、根本に戻って考えてみればやはりひとり一人のモラルの問題だと言わざるをえません。
ここに来て、専門分化が進む設計業務の実態に対応する為、一級建築士のうち、構造と設備の専門的な知識と実績を持つ者をそれぞれ専門の建築士として認定する制度を導入する方針を固めました。(H18.7.31)
しかし、日本建築士会連合会では、すでに2001年(H13年)秋に新たな建築資格制度のグランドデザインを発表していました。それが、「継続的能力開発制度(CPD制度)」と「専攻建築士制度」の2本立てです。
■継続的能力開発制度(CPD制度)■
一言で言えば【建築士の継続的能力開発の実績を建築士会が登録し社会へ表示する制度】となります。
内容 日常的な実務における能力を評価するしくみと、実務経験の補完や新しい知識・技術を身につけるための研修によるしくみの2つの方法による開発を行います。
参加登録 原則、建築士会の正会員。 参加登録は、建築士会に登録費を納入しCPD手帳の交付を受けます。
期間と目標 5年間をひとつの期間として、その間に250単位の能力開発を行うことを推進し、1年間に50単位を目安とします。単位は、研修によるものと実務によるものから適切に得ることになります。
■継続的能力開発制度(CPD制度)■
一言で言えば【建築士の専攻(専門)領域を建築士会が認定・登録し社会に明示する制度】となります。
内容 この制度は「専門分化」という大きな時代の流れを受けて、各建築士は責任を果たすべき自らの専門業務領域を社会に明示(情報開示)する必要があるとする、職能者としての自覚を根拠にして提案されたものです。業務上のメリット論という発想からではなく、あくまでも建築士が職能者として襟を正すということによって市民社会の信頼を得、結果として職能的権威を確立したいという思いからの提案なのです。「専攻建築士」に対して認定後、表示制度として「専攻建築士証」が発行されます。
対象者 現在に於いては、建築士会の会員ですが、社会的制度と将来は会員以外にも枠を広げた制度として立ち上げる必要があるようです。
専攻建築士 A.統括建築士(建築設計士) B.構造建築士 C.環境・設備建築士 D.建築生産建築士(施工分野・積算) E.行政建築士 F.棟梁建築士(設計・工事監理及び施工の業務に一体的に従事)
更新 5年ごとに更新手続きを行います。CPDとリンクして行う為、年間50単位、5年で250単位の取得が必要になります。
運営 あくまで地域単位の各建築士会が担います。
■ 実 情 ■
全国の会員総数107,084人に対してCPD参加者数は27,690人(25.9%)が2006年5月末現在の取り組み状況です。山梨県の52%、48%の静岡県と続き、沖縄・鹿児島・佐賀・山形・福井の各県が40%台を維持しています。その逆は、高知県の9.2%が最低で長野・和歌山の両県も9%台になっています。全国平均では25.9%、会員4人に1人が参加していることになります。これをどのように評価されるのかは現時点では明確ではありませんが、国交省の動向も気になるところです。
ちなみに埼玉県は、会員数1985人、CPD参加者454人で22.9%。残念ながら全国平均以下の数値となっています。
しかし、CPD制度が始まって4年目(H18年)に入っていますが、参加者数は多くてもCPDデータを登録している人が少ないという状況が見られます。埼玉建築士会では、H16年12月現在での登録者は87名で、参加者の20%程度の登録数です。また、専攻建築士制度の立ち上げもまだなされていません。(H18年10月頃を目安に立ち上げるようですが) 約40都道府県が立ち上げていることを見ると遅れた感がありますが、まずは登録者が増え、職能者としての意識の高まりを期待したいところです。
今、日本は地震学的に非常に危機的な時期を迎えています。それは今後30~50年程度の間にマグニチュード8(M8)級の巨大地震が発生すると言われているからです。当然、この前後に起こりうるM7程度の地震の数は増えると思われています。 M7クラスというと兵庫県南部地震に相当します。 一連の地震の被害予想として、全壊・全焼のみで200万棟超といわれ、総被害額は300兆円に届くとも見積もられています。すでに行政や関係機関が復旧復興の事後対策を検討していることと思われますが、現況のまま危惧されている被害が発生した時、本当にその対策が機能すると思われますか?私達の為に動いてもらえると思っていませんか?
地震に対する最大の防災対策は自分自身が行動することなのです。その中で最も重要なことが耐震性の不十分な建物の建替えと耐震補強なのです。既存不適格建物(現在の建築基準法に合致していない建物)は全国で木造のみでも1000万棟以上あるといわれていますが、それが倒壊すると想像してみてください。自分の建てた家が凶器となり、人的被害が想像を絶する膨大な数に及ぶことを想像してみてください。あなたもその中に含まれていたら・・・。
阪神・淡路大震災
阪神・淡路大震災のデータを再確認してみます。 地震直後の死者数約5,500名の死因・・・家屋の倒壊が約88%、地震直後に発生した火災が約10%、つまりほとんどの方が家屋の倒壊により死亡されたことになります。 建築物の建築年代別被害の割合は、1971年(RCのせん断補強規定の強化)以前は75%、1972~81年は43%、1982年(新耐震基準の適用)以降は24%です。このことから、1982年以前に建築くした建物は、構造的に現在の基準に合致せず非常に危険度が高いことを示しています。 ちなみに、兵庫県に於いて旧耐震基準で建築された民間住宅を対象に行政の負担にて3年間で約13,000棟、39,000戸を耐震診断しました。その結果、木造住宅11,000棟のうち、「やや危険」と「倒壊の恐れ」がある住宅が約84%もありました。
1995年の阪神・淡路地方の大地震から10年の間に、幾度となく大きな地震が発生しています。新潟県中越地震は記憶に新しいですね。日本列島自体が地震の巣になっていて、且つ関東地方周辺では大きなエネルギーが蓄えられているような気がしてなりません。しかしながら私達はその上で日々の生活を営み続けています。地球規模的な自然現象としての災害は避けて通ることはできません。その中でも、地震は他の災害と違っていきなり発生しとてつもない被害を与えるものです。それでも私達は身を守り、生き抜いていかなければなりません。そのためにはどうしたら良いのかをひとり一人が真剣に考え、小さな地域単位からまず防災対策を進めていくことが大事なことです。
冒頭にも述べましたが、まずは私達自身(家が)が健康なのか、どこかに疾病があるのか診断をしてみましょう。木造住宅に関しては「何年以降の建築なら安心です。」という言葉は通用しません。なぜなら、生活観が違うことから、「リビングは大空間に・・・。」「大きな開口部からたくさんの光を・・・。」などなど、住まいづくりにおける希望が多様だからです。それを、「はいはい」といいながら設計してしまう設計者にも問題はあるのですが・・・。 つまり、何が問題なのかというと、建物は「バランス」が大切だということなのです。建物の耐震性能を高めるには「耐力壁の配置をバランスよくする」ことが何よりも重要で、初期の耐震診断とはそのバランスを調査することなのです。図面があれば簡単にできます。費用も安くできますし、行政の補助金制度もあります。 貴方の家を診断し、状況を把握し、処方が必要なら安心して住まう為に耐震補強を施しましょう。同じように隣近所が行えばもらい火ならぬもらい倒壊を受けずにすみます。そうやってひと区画から町内へと広げていき、小さな防災対策地域が点在しながらもできてくれば、やがて大きな地域へと広がりをみせてくるでしょう。それによって、災害時において緊急車両の通行、病院や避難所までのアクセスを確保でき、しいては命を救うことになります。 日々の設計活動のみならずこのような啓発活動も建築に携わる人間(設計者)としての責務だと考えています。
※新耐震基準の建物や耐震補強した建物はどんな地震にも無傷でいるということではありません。地震によって被害はでますが、簡単に倒壊せず人が安全に避難できる状態を保つことが目的なのです。ここで述べたことは建物そのもののことであって、家具類の転倒等は別の防止対策として考える必要があります。
空気はそのほとんどが酸素と窒素で構成されていますが、必ず水蒸気を含んでいます。この空気に含まれる水蒸気は、空気の温度によって含まれる量の限界が変わり、状態が変化するという性質があります。
例えば、30℃の空気では30.3g/m3、20℃の空気では17.3g/m3までの水蒸気を含むことができます。これが0℃の空気では4.8g/m3までの水蒸気しか含めません。この含むことのできる限界の水蒸気量を飽和水蒸気量といい、水蒸気の圧力で示すときは水蒸気圧といいます。もしこの飽和水蒸気量を超えた水蒸気がある場合は、空気が水蒸気のかたちで含んでいることができないため、この水蒸気は水になります。
温度と飽和水蒸気量の関係は、温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができます。圧力でも同じ関係にあります。
人が生活している住宅の中の空気は、普通20℃湿度50%とか、暖房していない部屋では 10℃80%といった値に冬はなっています。この20℃50%の空気は、8.77mmHgの圧力を示す水蒸気を含んでおり、飽和温度は9.3℃です。したがってその屋の中で9.3℃以下になっている場所があると、そこで水蒸気が水に変わり水滴となって現れてきます。窓ガラスはすぐに低温になりやすいところですので、いつも最初に水滴だらけになるわけです。これが結露といわれるものです。
飽和水蒸気圧と湿度の関係
図2の飽和水蒸気圧曲線を見ると、温度が高くなると急激に多くの水蒸気を含むことができるのがわかります。20℃50%というと8.77mmHgの水蒸気圧ですが、この空気を10℃に冷やすと、図の点線の左の方へいき95%の相対湿度になってしまいます。さらに9.3℃に冷やすと100%になります。したがってこの温度以下の物体にこの空気が接すると、結露が生じます。
飽和水蒸気圧曲線は直線でないことに注意が必要です。低い温度になると、わずかな水蒸気の増加でもすぐに飽和するようになります。例えば25℃では、1m3の空気に対して1gの水蒸気が増加しても4%程度、相対湿度が高くなるだけですが、5℃では役15%も高くなってしまいます。このことは、室温を低く保つとよけい結露しやすいことを示しています。
つまり、高い温度の部屋では少々の水蒸気が余分に発生しても結露することは少ないのですが、低い温度の部屋では余分な水蒸気の発生は、すぐに結露につながるということです。
次回は結露の分類や対策等について考察します。少し時間をください。